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働き方改革時代に求められる「生産性向上の基本」

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2019年4月の労働基準法改正から早くも5年が経ちました。2019年の改正点としては、原則として月45時間、年360時間までという時間外労働の上限規制が導入され、年5日以上の年次有給休暇取得も義務づけられることになりました。
雇用される労働者は、これまで以上に、限られた時間の中で成果を上げるよう求められる環境になりました。そして、改正から5年の間に、テレワークが普及し働き方も大きく変わったかと思います。

しかし、研修やセミナー、ワークショップなどの現場で受講者の方々とお会いしている中で感じるのが、「生産性向上」と「業務効率化」が同じ意味と捉えられてしまっていることです。
また、生産性をあげることが必要だと認識しつつも、「具体的に何をしていったらいいのかという方向性が定まっていない」という印象も受けます
働き方改革が叫ばれるようになって、すでに久しくなりますが日本の労働生産性が先進国の中でだいぶ低い水準にある現状は、変わっているとは言いがたいです。

そこで今回は、「働き方改革時代に求められる『生産性向上の基本』」と題して、生産性の上げ方についてお話しいたします。

生産性向上と効率化の違い

生産性とは何か

生産性とは「投入資源の量に対する、価値算出量の割合」を指す概念です。

  • 生産性 = 価値算出量 / 投入資源量

ざっくり言えば、「いくらを投入して、いくらの売上を作ったか」を表す概念です。
この割り算の結果が高ければ「生産性が高い」ということになります。

例えば、AさんとBさんという2人が商売をしているとしましょう。
Aさんは10万円の元手で100万円の売上を作りました。 この場合、生産性は「100万円 / 10万円 = 10」です。
Bさんは30万円の元手で240万円の売上を作りました。 この場合、生産性は「240万円 / 30万円 = 8」です。
商売の規模はBさんの方が大きいですが、生産性はAさんの方が高くなります。

生産性を上げるためには

生産性は割り算の結果です。したがって、生産性を上げるためには様々なアプローチがあります。

1.同じ投入資源に対する、価値算出を大きくする
同じ元手を使って、売上を増やすアプローチです。
商品の付加価値を高めたり、ブランドイメージを高めて価格を上げたりすることで実現できます。

2.同じ価値算出に対する、投入資源を小さくする
同じ売上を生み出すために使う元手を減らすアプローチです。
業務プロセスを短縮化したり、既存の資源を再利用して手間を削減したりして業務効率を上げることで実現できます。

3.投入資源を小さくして、価値算出を大きくする
元手を減らして、売上も増やすアプローチです。
イノベーションなど、従来のビジネスモデルやプロセスを根本的に変えることによって実現できます。

4.投入資源を大きくして、価値算出をもっと大きくする
元手をさらに加えることで、売上をより増やすアプローチです。
研究開発や設備に投資することで実現できます。

生産性向上と効率化の違い

生産性と同じような意味合いで使われる言葉に「効率」がありますが、両者の意味は微妙に異なります。
効率とは 「一定の成果を生み出すために必要となる資源(資本や労力)の比率」 を表す概念です。
生産性との違いは、「求める成果(価値算出)がまずあって、それに対してどれだけの資源が必要か」を意味していることです。

すなわち「効率化」とは、成果に対する投入資源を減らすアプローチであり、先ほどご説明した「2.同じ価値算出に対する、投入資源を小さくする」に 相当します。
つまり『効率化は生産性を向上させるための手段の一つである』と言うことが できます。
以上、生産性と効率の基本的な考え方についてお話しいたしました。

とは言え、高度に情報化された現代に働く私たちの仕事はとても複雑です。 生産性を上げるためには、もう少し細分化して生産性の上げ方を考える必要があります。

オフィスワークの生産性の特徴

本当に「仕事」をしているのか

ここまで、生産性とは「投入資源の量に対する、価値産出量の割合」を指す概念であるとご説明いたしました。

  • 生産性 = 価値産出量 / 投入資源量

ここで着目いただきたいのは、計算に用いているのは「価値産出量」であって「仕事量」ではないということです。

仕事のすべてが価値産出に直結しているなら、仕事量をそのまま価値産出量と読み替えてしまっても問題ありません。しかし、高度に情報化された私たちの仕事、特にオフィスワークにおいては、必ずしも「仕事量=価値産出量」になるとは言えません。
なぜなら、この「仕事量」の中には、価値産出に直結しない仕事が多分に含まれているからです。

例えば、「営業」という職種で考えてみましょう。
営業という仕事のミッションは「受注を獲得する」ことです。 そして、そのために必要な活動は「お客様と面会し、提案を行うこと」です。
面会にあたっては、お客様先への移動も必要になりますし、提案書や見積書などの資料作成も必要です。また、取引先のお客様からのメールや電話の対応も営業の仕事の一つです。
ここまでが、営業の「本来業務」だと言えます。

しかし、組織で仕事をする以上、社内でのミーティング、部門間の調整、事務処理など様々な社内仕事が存在します。
これらは、営業の仕事をするにあたって、運営・管理上ついてまわる「付帯業務」だと言えます。
当社の営業力診断を導入いただいているお客様の中には、この付帯業務の割合が全体の50%以上を占めいている企業様もいました。

このお客様の営業の方々では、お客様先に訪問している時間は全体の10%以下(1日8時間労働だとして、たったの45分に相当!)に過ぎず、ほとんどの時間が営業資料の作成や付帯業務に費えてしまっています。
この状況の中で、「仕事量が価値産出に相当している」と言えるでしょうか。
価値産出量を考える上では、

  • 価値産出量 = 総仕事量 - 付帯業務量

現代の仕事で生産性を考えるためには、すべての仕事量にから「付帯業務」の量を差し引き、価値産出に直結している仕事量を厳密に見ていく必要があります。

オフィスワークの「投入資源」は何か

一方で、生産性の分母に相当する投入資源についても、オフィスワークの特徴があります。もともと、【生産性】という概念は製造業で広く普及しました。
製造業における投入資源は、Man(人)、 Machin(機械)、Material(材料)の3つで、これらは「生産の3要素(3M)」と呼ばれます。
生産性を上げるためには、優秀な人員を投入する、設備投資を行う、良い材料を使うことが必要になるわけです。
ところが、オフィスでの仕事には「材料」に相当するものがありません。
あえて言えば「情報」がそれに相当しますが、その価値換算は非常に難しいです。
また、オフィスにおける「機械」の投資については、ITシステムやスマートデバイスの配備などが挙げられますが、それらがもたらす効果はやや限定的で設備投資によって生産性が劇的に変化することは考えにくいと言えるでしょう。
(例えるならば、5万円のパソコンと20万円のパソコンとで、仕事の成果に4倍もの差は生まれないと言えます)

したがって、オフィスワークにおける投入資源は、その大部分が「人」であると言えます。
そして、「人」をさらに細分化すると「能力 × 時間」と表すことができます。
能力の高い人は少ない時間で仕事をすることができますが、能力の低い人であったとしても、時間を多くかけることによって同じだけの仕事ができると考えることができます。

オフィスワークの生産性向上

以上をまとめると、

  • オフィスワークの生産性 =(総仕事量 - 付帯業務) / (能力 × 時間)

と表すことができます。
この式に基づくと、オフィスワークで生産性を上げるためには、 2つのアプローチが考えられます。

1.付帯業務を削減する

形骸化した報告書や会議、必要以上に手間のかかる事務作業、組織の風通しの悪さによる部門間調整など付帯業務が多いと、どれだけ仕事量が多くても実質的に生み出す価値は少なくなってしまいます。
付帯業務の削減・効率化を進めることで、「本来業務に集中する」環境を作り出し、結果として価値産出を大きくすることができます。
目的の不明確な会議をやめる、RPAなど次世代ツールを使って事務作業を自動化・簡素化する、組織風土を改善して部門間の風通しを良くする、など施行することによって、生産性のさらなる向上が図れます。

2.能力を伸ばす

投入資源は「能力 × 時間」ですが、働き方改革時代の現代において、労働時間をさらに増やすことは好ましいとは言えません。
むしろ、もっと時間を削減することが求められます。
時間を削減しながら仕事量を保つためには、能力を上げる必要があります。
個人レベルでビジネススキルや専門性を向上させるのはもちろん、組織内の情報共有を行って他人の経験値を活用できるようにしたり、組織マネジメントの質を上げて相乗効果を高めたりすることで、組織レベルでの能力向上を図ることも生産性の向上につながるでしょう。

今後、少子高齢化が一層加速する我が国においては、様々な事情を抱えながら働く方々がますます増えていきます。
かつてのように長時間労働で仕事の成果を追求する時代は、すでに終焉を迎えています。
付帯業務を極限まで削減し、個人と組織の能力を高めて、高い生産性を追求していくことが、現代のすべての職業人に求められている働き方であると、私は考えます。

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