執筆者:山脇帝人
今回のテーマは「マーケティング」です。
その中でも、中小企業における効果的なマーケティング手法を「BtoC商流」の側面からお送りいたします!
地域ブランドの活用ーサービス業ー
地域ブランドの活用をお伝えするにあたり、代表的な業種としてサービス業と小売業をあげてご説明します。
サービス業は生産と消費の同時性から事前にその内容について確認するのは難しい職種です。
このような場合、前もってイメージさせる「ストーリーテリング」が有効です。
▷サービスにストーリーを乗せ独自要素を訴求する
例えば独自要素とは、土地、地理、創業者、地域との関係性などを盛り込むことであり、唯一無二のストーリーを創りだすことが有効になります。
▷ビジュアル化する
サービスの視覚化、ストロングポイントの視覚化です。「会社案内」「会社ロゴ」「サービス商標」「店舗インテリア」「ホームページ」「従業員のルックスや声」「ポスター」「名刺・封筒」「店舗エクステリア」「看板」「香」などになります。
地域ブランドの活用ー小売業ー
続いて小売業ですが、物に情緒を乗せるという手法、形ないストーリーを付加し差別化を図るという独自要素はサービス業と同様です。
サービス業と異なるのは、商品は形あるものであり、既に視覚化されていることです。
サービス業で視覚化するものにプラスして、商品にまつわる要素が追加され、それは「商品デザイン」「パッケージ」「POP」「売場陳列(ディスプレイ)」「商標」となります。また、知的財産として意匠権を押さえておくことが望ましいです。
一方で直視しなければならない脅威として、大型店の攻勢・ネット販売などの流通変化があげられます。それに対しては地域資源を活用するべきで、地域を包含したブランド力に勝る対抗資源は、他に多くは存在しないことが理由となります。
地域ブランドとは「その地域が独自に持つ歴史や文化、自然、産業、生活、人のコミュニティといった地域資産を、体験の“場”を通じて、精神的な価値へと結びつけることで、“買いたい”“訪れたい”“交流したい”“住みたい”を誘発する“まち”と定義できます。
地域ブランドの構築とは、こうした地域の有形無形の資産を人々の精神的な価値へと結びつけることで、それによって地域の活性化を図ることになります。
人々は、地域資産としての歴史や文化、まち並み、自然、人との相互作用によって価値を見出します。ブランド力の強い地域ほど、それらの地域資産の連想は、バラバラではなく、全体としての統一感や世界観を持っている」と言えます。
地域ブランド構築のポイント
地域ブランド構築のポイントとして、次の3つがあげられます。
- 地域自体の存在が魅力的であること、
- 中小企業そのものに独自のストーリー性があること、
- 商品にかかわった消費者により形成されるストーリーがあること
これらが融合することで、コスト志向を駆逐することが可能になるのです。
さらに、クチコミを利用するのも経営資源に限りのある中小企業にとっては有効です。このことを、通常Consumer to Consumer(CtoC)と呼んでいます。
CtoCとは「今日、信頼は縦の関係より横の関係に存在している。消費者は企業より他の消費者を信頼しているのである。ソーシャル・メディアの台頭は、消費者の信頼が企業から他の消費者に移ったことのひとつの表れである。
ニールセン世界消費者動向調査によると、「企業が打ち出す広告を信頼する消費者は減っている。消費者は新しい信頼できる広告形態として、クチコミに期待しているのである。調査対象となった消費者のおよそ90%が、知人からの推奨を信頼している。さらに、消費者の70%がオンラインで投稿される顧客の意見を信用している」とあります(出典:フィリプ・コトラー(2010)『コトラーのマーケティング3.0』)。
このような関係性マーケティングは、20年ほど前より議論されています。
その枠組みは当初、企業と消費者との関係性、いわゆるBtoCの関係性を強調したマーケティング戦略でしたが、今日の消費者が成熟している市場では、需要の創造に注力することよりも、CtoCの関係性、つまり消費者の力によって新たな需要を開発し、新たな消費者を捕捉していくという行為が最も重要なのではないか。そして、その推進役が超高関与消費者群であるなどと言われています。
超高関与消費者群とは、宝塚市をを発祥とする宝塚歌劇のファンを思い浮かべていただくと分かりやすいかと思います。
中小企業でも取り組みやすい、ストーリーマーケティング
さて次に、お金がさほど掛からなくて中小企業でも取り組みやすい「ストーリーマーケティング」について紹介していきます。
市場において十分認識されると、その企業や商品・サービスの情報が消費者の意識に蓄積されていきます。それはやがて「企業ブランド」「商品ブランド」を構築していくことになります。ブランドの代表的な機能として以下の3つの機能があります(これは覚えておきましょう)。
- 出所表示機能
- 品質保証機能
- 広告機能
これらは信用を獲得し、ブランド価値は更に向上していきます。そのためには良い商品・良いサービスを供給し続けなければならないのは言うまでもありません。
産業材BtoBであっても、消費財BtoCであっても、前述の通りブランド形成の過程は同じです。
中小企業のブランディングは「企業ブランディング」「商品・サービスブランディング」のいずれにせよ、先ずは視覚的に見える化する必要があります。それをどう伝達するかはクリエイティブマネジメントやアートディレクションの世界となります。
伝達する手法としてストーリーマーケティングという考え方が有効です。それは、伝えたいことがストーリーを触媒とすることで、ターゲットとなる顧客に伝わりやすくなり、心にも留まりやすいという効果が期待できるからです。
ストーリーテリングにあたり、市場をセグメンテーションすることは重要な戦略要素となってきます。伝えたい顧客の気持ちを鑑みて、ストーリーを練り上げていくことが大事になります。それを進めるにあたり、キーワードを2つお伝えしておきます。
(1)情緒的
「情緒的」とは、物事を理性的ではなく感情的に捉えるような要素のある出来事・雰囲気などに使う言葉です。現代的に言うと「エモい」でしょうか。このキーワードを強く意識し、商品のストーリーを伝えて認知度を上げていくことで、国産竹100%使用の「竹紙」で竹の活用法の可能性を広げ、社会的課題をも解決しようとする画期的な試みをしている企業が中越パルプ工業㈱です。ブランディングのポイントは
- 竹紙と社会の接点を作る
- ひとりの思いから社会が動くことを知ってもらう
- 単品ではなくプロジェクトとして展開する
- 竹紙ならではのストーリーを伝える
などです。
BtoBのメーカーが生産コストのかかる竹紙を何故作り続けるのか。持続可能な地域貢献が企業にとって誇りとなることを確信するひとりの企業人の奮闘をストーリーとして発信することで、「共感」と「行動」の連鎖を生んでいきました。ブランディングとして「製紙会社として地域にどんな貢献ができるか」というストーリーを、素材感として打ち出しています。興味がある方はホームページをご覧になってください。
(2)ラストワンマイル
ラストワンマイルにある物語を発信する。最終消費者に一番近い所にいることは最大の強みです。
現在、特に多様化する消費者ニーズをいち早く察知し、それに臨機応変に応えることができるのは、大企業よりもそこにいる中小企業であると言えます。地域に根差しているからこそ可能な、商品・サービスの提供、そして情報の発信を続けることで持続可能な経営が可能になります。
このことを、ひたむきに継続することで、大企業には容易に真似のできない、地域住民とのフェイス・トゥー・フェイスの「信頼関係」を構築することができるでしょう。地域の事情に精通しているからこそできるブランド作りがあり、それは模倣困難な最大の強みとなります。これを「企業ブランディング」の源泉とし、またストーリーを触媒とし、さらにITを駆使して日本全国だけでなく世界へ発信することでJAPANブランドとして認知されれば、海外市場の販路開拓という、なおいっそうの効果も期待できるようになります。
中小企業における効果的なマーケティング手法を「BtoC商流」の側面からお話ししてきました。今後、中小企業の方と「マーケティング」について会話することがありましたら、知識として役立てていただけると幸いです。