- 「 ロス改善 」は食品スーパーの永遠の課題
- 食品スーパーのロスの現状
- 代表的な3つのロス(値引き・廃棄・機会)
- ロス率を改善するには
- ロス改善のストーリー
- ロス改善に取り組む前に
- 効果の上がるロス分析とは?
- 不要なロスは、信用もロスする
1.「ロス改善」は食品スーパーの永遠の課題
「ロス改善」というテーマはどのスーパーマーケットの会社でも程度の違いこそあれ、大きな課題の一つです。
(この読み物を読まれているということは、皆さんの会社もそうではないでしょうか?)
考えると、そういった方針を出すのは経営層の方です。
そこでまず、なぜ「ロス改善」がそこまで必要なのか、経営者の目線で考えてみます。
では経営者の役割が何かですが、まず考えつくのは「会社を継続する」ことです。
そして会社を継続するためには、儲けなければなりません。具体的にいうと、会社に残るお金は、粗利益から販売管理費(コスト)を差し引いた「営業利益」ですから、営業利益を稼がないといけない。これがまずお考えの前提にあるのではないでしょうか。
それを踏まえて、「現状のトレンド」を考えた上で、では「利益を確保するには」どうすればよいのかを考えてきたいと思います。
1.現状のトレンド
現状と将来の環境から考えると、
□ 売上 : 横ばい、あるいは下降
□ 原価 : 横ばい、あるいは上昇
□ 販売管理費(コスト) : 横ばい、あるいは上昇(人件費は上昇)
この中で、「 営業利益を確保 」しなければならない。
[ 営業利益 = 粗利益 - 販売管理費 ]で、販売管理費は「横ばい、あるいは上昇」、その中で営業利益を出すためには、「 粗利益を稼ぐ 」ことが重要な課題となります。
図1
2.利益を確保するには
では、粗利益をどう確保するか?
原価は「よくて横ばい、あるいは上昇」の状況、売価は「 ただ単に値上げ 」ではお客さまの支持を失うだけであり、また「 高単価で、値入率も高い商品を導入 」すれば売れるのかといえば、単価が上がればお客様の目もよりシビアになりますし、なかなか難しい。
そうなると「粗利益を稼ぐ」ために有効な要素として残るのは「ロス」です。これが「 ロス改善 」が必要とされる背景です。
2.食品スーパーのロスの現状
下の図2をご覧ください。
こちらは新日本スーパーマーケット協会の「平成29年スーパーマーケット年次統計調査」から引用し加工した
- ロス率と売上構成比
- 売上規模別に推定したロス金額(単位:万円)
- ロス率が0.2%改善した場合の改善金額(単位:万円) になります。
図2
会社全体でのロス率は 4.0%[ ロス率=ロス額÷売上 ]ですが、一般的にスーパーマーケットの粗利益率が 20%台であること(売上の約1/4しか残らない)を考えると、大きなインパクトがあることが分かります。
そして、そのロスを部門別にみてみると、
- ロス率 : 惣菜 10.4%、水産 9.0%、畜産 6.0%、日配 3.5%
- ロスの相乗積 : 惣菜 1.08、水産 1.04、畜産 0.83、日配 0.65
と、惣菜・水産、ついで畜産・日配のロスが大きくなっています。
3. 代表的な3つのロス(値引き・廃棄・機会)
それではロスには、どのようなロスがあるのでしょうか?
現場でよく起こるロスは以下の通りです。
- 値引きロス: 定価より「○○%引き」「○○円引き」で販売することによるロス
- 廃棄ロス: 消費期限・賞味期限・販売期限切れ、品質・見栄えなどに問題があり、 お客さまに販売できる状態ではない(なくなった)商品を捨てることによるロス
- 機会ロス: あれば買っていただけたはずなのに、無かったためにお客さまが買えなかったことによるロス
この3つのロスを「店側の視点」と「お客さまの視点」から見てみましょう(図3)。
図3
<廃棄ロス>
店側から見ると、「 損失 」で、これは原価だけでなく、それまでの作業負担も含みます。
捨てるという作業がありますので目で分かりますし、またデータでも分かります。お客さまには分かりません。
<値引ロス>
店側から見ると、「 損失 」(想定していた売価で売れなかった)で、データで分かります。しかしお客さまからしたら値引いた分、安く買うことができますので、「 得した 」となります。ただし、これは「 お客さまがその価格に納得した 」場合です。大事なのは、「 お客さまの感じる価値 > 価格 」となることで、特に生鮮食品や日持ちのしない日配食品は時間が経てば経つほど、「 お客さまの感じる価値 」は下がっていきますので、その分、割引率を大きくしないと売れなくなります。
逆にいうと早い段階での値引きであれば、低い割引率でも売れますし、お客さまの満足度も高い可能性があります。ですから「 早期低率値引き 」という考え方が大事になります。
<機会ロス>
店側から見ると、ロス無く売れたという意味で「 利益 」と感じます。しかしお客さまからしたら、自分が買いたかったものが買えなかったわけですから、「 損した 」と感じます。
もしその商品がお客さまの目的のものであったら、せっかく来ていただいたのにがっかりした気分で帰られてしまいますし、それが続くようならば、「当てにならない店」としてそもそもご来店を避けるようになるかもしれません。この機会ロスは目に見えず、データには現れません。(時間帯別販売数、最終販売時刻である程度推測することはできます)ですから目に見えない機会ロスを見えるようにする取組みが必要になります。
4.ロス率を改善するには
ロス率の改善を考えるために、まずロス率の構造を分数で考えてみましょう。(図4)
図4
つまり、「ロス率を改善する」ということは
- 分子の「ロス額」を減らす
- 分母の「売上」を増やす ということになります。
そして、この表からいえることは、まず「廃棄ロス」を減らす場合。
これは単純に分子の「ロス額」が減りますので、廃棄ロスが減ればロス率が下がります。
また「廃棄ロス」というのは、新たに廃棄作業を発生させるだけでなく、それまでの手間を全てゼロにする行為ですので、削減することで作業の生産性が上がります。
次に「機会ロス」を減らす場合。
これは単純に分母の「売上」が増えますので、機会ロスが減ればロス率は下がります。また「機会ロス」とはお客さまをがっかりさせてしまうことですので、機会ロスが減ることにより、お客さまの満足度が上がります。
最後に「値引きロス」を減らす場合。これには注意が必要です。なぜかというと単純に「ロス額」が大きい商品の発注・製造数を減らすと、「ロス額」が減りますが、一緒に「売上」も減ってしまうからです。
そのときに大事になるのが「ロス率」も見ることです。常に高いロス率が出ている商品を抽出し、発注数・製造数の見直し、あるいは早期定率値引きを実行していく。早期低率値引きが有効なのであれば、そもそもの売価が高いかもしれませんし、それでも高いロス率が出るのであれば商品自体の問題かもしれません。
5.ロス改善のストーリー
④のロスの構造を踏まえると、ロス改善のストーリーは以下の通りになります。(図5)
図5
1.目に見えて、すべての労力を無にする「廃棄ロス」を減らし、廃棄金額を減らす。
→単品データで、「廃棄金額の高い」商品を抽出し、対策を実行する。
2.目に見えない、お客さまをがっかりさせる「品切れ」を減らし、売上を上げる。
→品切れの状況が「見える」ように、日々決まった時間で「品切れチェック」を行う。
→合わせて単品データで、「時間帯別販売数」「最終販売時間」を確認し、あれば売れただろう数量を推測する。
→その数量が提供できるように、発注・製造計画を修正する。
3.売上を損なわないように、「値引きロス」を減らす。
→単品データで、「ロス率の高い」「ロス額の高い」商品を抽出する。
→その原因に対し、仮説を立てて、それに見合った対策を実行する。
→その対策の結果を検証し、必要であれば、追加の対策を実行する。
それぞれの特徴を考えると、この順番で行うのが理に適っていると考えます。 そして、以上の3つがある程度、効果を上げてきたら、
4.お客さまが「欲しい商品を導入」し、売上を上げる。
ここで重要なのは、「お客さまが欲しい商品をどうやって知るか」です。
例えば、売場でのお客さまの問い合わせ、競合店で面をしっかり取り陳列しているが自店で取り扱いの無い商品、また自社の他店舗で実績があるのに自店で取り扱いが無い商品などが考えられるのではないでしょうか。
ただし、これは品揃えを増やせば、そのまま売上が増えるわけではありません。その品揃えにより、他の商品が売れなくなる可能性もあります(いわゆるカニバリ)。ですから新規商品の導入には十分な検討が必要であり、即効性は期待できません。
これが「既存の商品のロス改善の効果が上がってから」にする理由になります。
6.ロス改善に取り組む前に
「ロス」が発生するのは店舗ですから、ロス改善の取組みは当然店舗で行われます。しかし以下の理由からなかなか思うように進まないのが現状ではないでしょうか?
【 思うように進まない理由 】
1.ルーティンの業務の負担が大きい
→ ロス改善に割ける時間が少ない
2.ロス改善の効果的な手法が分からない
→ 行動に移せない
3.データはあるが、必要な情報に変換できない
→ 問題が特定出来ない
4.ロス改善に関して、会社としてのPDCAサイクルが無い
→ 継続しない
1.ルーティン業務の負担が大きい
「 ロス改善 」といわれても、店舗では業務に追われ、それほど時間は取れないと考えるのではないでしょうか。それはただ仕事が増えると感じるからだと思います。しかしロス改善を突き詰めていくと、
- 発注と製造量の精度を上げる
- その精度を上げるための情報収集 に行き着きます。となると、
「ロス改善が進むとロスだけでなく、(不要なロスに関わる)無駄な作業が減る。
→自分の仕事に追われることが無くなり、余裕を持って仕事が出来るようになる。
→仕事の負荷が減り、付加価値を生む(楽しい)仕事により時間を使えるようになる。」 ということがいえます。
こういったロス改善を実行することにより、自分たちにもメリットがあるイメージを店舗の皆さんに持っていただくことが大事です。
2.ロス改善の効果的な手法が分からない
店舗の方たちは、ロスに関する計算の仕方はご存知かもしれない(知らない方も実は多い)ですが、ではその「ロスをどのように改善するか」についてを体系的に学ばれた方は少ないのではないでしょうか。
3.データはあるが、必要な情報に変換できない
会社のシステムからデータは取れるのですが、ある意味「数字の羅列」で、読み込めない、あるいは読み込むのに時間がかかる。またエクセルで加工するにしても、エクセルのスキルが未熟で、有意なデータに変換できない。
そもそも「使えるデータ」にするための、時間もスキルも不足している店舗が多いのが、現状ではないでしょうか。
4.ロス改善に関して、会社としてのPDCAサイクルが無い
よくあるのは、「ロスを改善するように」との指示があり、最初は取り組むのですが、そのうち日々の業務に追われ、立ち消えていってしまうといったケースです。しかし、「ロスを適正な状態にする」というのは、会社にとっての永遠の課題で、現在のような環境では特に重要ですので、継続して行われる必要があります。ここで大事なのは「会社として」行うことです。具体的に言うと、ロス改善の「プロジェクトチーム」を設立し、メンバーには販売部の方だけでなく、商品部、SVの方も参加し、定例の会議体を回すことです。商品部の方も参加するのは、店舗だけで改善しても限界があるからです。
例えば、棚割り。ロス改善を進めていくと、定番で継続して高いロス率が発生しているのに、「棚割りにあるから」と棚割りを守ることが正となり、当たり前にロスをある意味垂れ流している商品がでてきます。
こういった商品をどう考え、どういう対策を打つのかについては、店舗と商品部の間で話し合いの上、合意や決めごとが必要です。
また広告商品では、例えば店舗からすると「広告だから発注せざるを得ないが、ロットが大きく、結局広告の後にいつもロスが発生している」商品があります。これについても、「広告だから」ではなく、商品部の方が店舗の意見を吸い上げ、数値で分析した上で会社としてどうするかを判断する。こうした店舗と商品部の連動が必要です。
大事なのは、
- 「会社として」という共通認識を持つ
- それを持った上で同じ数字を追う ことです。
経験上、それが出来ただけでも数字は確実に改善すると言うことが出来ます。
7.効果の上がるロス分析とは?
突き詰めていくと、ロス率改善に直結するのは、発注・製造数の適正化です。なぜなら、それが店舗での陳列数を決めるからです。
そうすると必要なデータとは、過去の
- 売上数量 (実際何個売れたか)
- ロス率 (その販売の意味合い) の2つに尽きます。
その商品の優先順位をつけるために、ロス金額・売上金額が必要になってきます。 そしてデータは分析するのが目的ではなく、それにより適切な行動を導き出すことが目的です。分析しただけでは現実は変わりません。また忙しい現場での活用を考えると、必要な情報が一目で分かることが大事になります。
それでは、「 一目で分かる 」データとはどんなものでしょうか?例えば、惣菜で曜日別の販売データを分析するとします。すると、加工してできるのは以下のような資料ではないでしょうか。
図6
これでも、会社のシステムから抽出したデータよりかなり見やすく整理されており、読めば分かるデータになっています。とはいえ、「読めば分かる」ということで「 一目で分かる 」データにはなっていません。
ここでいう「 一目で分かるデータ 」はもう一歩踏み込んだものです。簡単にいうと、販売数の意味合いが色で分かるデータです。以下の資料をご覧ください。
色は以下のことを示しています。
- 緑は「ロス率10%以下」:チャンスロスの懸念
- 黄は「ロス率15%~25%」:ややロスが高いので、注意
- 赤は「ロス率25%以上」:ロスが高いので、対策が必要
このデータであれば、その曜日の販売数の「意味合い」が一目で分かります。更に定性情報(天気・気温・イベント・陳列の仕方など)を加味することも大事です。
以上の定量情報(データ)と定性情報を把握することによってはじめて、発注・製造計画の精度を上げることが出来ます。
次に具体例をみていきます。
1.廃棄改善:[ハイキワースト]
図8をご覧ください。これは単純にロス金額の高い順に並べたものです。
図8
廃棄金額の高い商品から順番に並べ、高い順に対策を考えますが、その際ロス率によりその意味合いも変わってくるので、ロス率も必ず確認します。
具体的にいうと、廃棄がでているにも関わらず、ロス率に「赤色」がついていないとすると、普段は普通に売れていて、たまたまある曜日でイレギュラーの要因(例えば、夕方に大雨が降った、別の同じような商品が特売になったなど)が起こった可能性があります。そういったことを踏まえ、発注・製造数の調整、場合によっては商品の改廃を検討します。
2.値引・機会ロス改善:ツール[単品PPM分析]
単品PPM分析では、「売上構成比とロス率」の2つの軸で商品を4つに分類します。(図9参照)
図9
以上のように分類すると、そのゾーンごとに、売上構成比とロス率の関係から意味合いが付きます。それにより取るべき対策の方向性が見えてきます。具体的にいうと、
① 売上:大 ロス率:低 →優等生
- ロス率が低すぎないか?
- 売場の面はしっかりとれているか?
② 売上:大 ロス率:高 →問題児
- 発注数・製造数の見直し
- 売価などの見直しの検討(商品部)
③売上:小 ロス率:低 →金のなる木
- ロス率が低すぎないか?
- 売上拡大の余地はあるか?(商品部・販売部)
④売上:小 ロス率:高 →負け犬
- 何故、売れずにロスになる?【改廃対象】
- 発注数・製造数の調整
というように打ち手が見えてきます。
具体的な表に落とすと、以下のようになります。(図10参照)
図10
大事なのは、「その週だけでなく、過去の週のデータも合わせて判断する」ことです。
なぜならば、その週のデータが
- 一過性のものなのか
- 継続して起こっているものなのか 分からないからです。
この点を加味して考えないと、誤った対策を打つことになる可能性があります。
3.発注・製造数見直し[時間帯別販売数・ロス率]
商品によっては、時間帯別の販売数・ロス率をみることも必要です。(図11)
図11
時間帯別の販売数も、ロス率を合わせてみることにより、打ち手が見えてきます。
ここで気をつけなくてはならないのは、夜の値引きは販促でもあるということです。特に惣菜や刺身はその値引き商品を目当てにご来店される方も多いのではないでしょうか。ですから夜の時間帯のロスが少なすぎると、お客さまの満足度が低くなり、客数減を招いている可能性があるということを考えなければなりません。
いずれにしても、大事なのは、お客さまにとって、その値引きにありがたみがあるか(当たり前になってないか)ということです。お客さまからすると、同じ商品が毎日大量に2割引、3割引、半額になっているとそれが「当たり前」になってしまいます。
そうではなく、お客さまが「通常の商品を安く買えて良かった!(うれしい!)」と感じていただくことではじめて「販促」になるのです。
8.不要なロスは、信用もロスする
この章が最後になりますので、これまでの振り返りをしておきます。
- 現在、我々を取り巻く経営環境は厳しさを増しており、「売上は上がらない、販売管理費は上昇傾向」状況である。
- そんな中でも、会社を存続していくためには、営業利益を出していかなければならない。それに対する一つの有効な手段と考えれるのが「 ロス改善 」である。
- しかし、いざ「 ロス改善 」に取り組むといっても
- ルーティンの業務の負担が大きい
- (ロス改善の)効果的な手法が分からない
- データはあるが、必要な情報に変換できない
- (ロス改善に関して、)会社としてのPDCAサイクルが無い などの理由から、なかなか思うような成果が上がらない。
そして、「 ロス改善 」の成果を上げるためには
- 論理的な考えに基づいた手法
- データに基づく合理的な根拠
- 店舗(販売部)・商品部・SVが連動した取組み が必要である。
といった内容をこれまで、みていただきました。
★ 最後にお伝えしたいのは、「不要なロスは、信用もロスする」ということです。
どういう意味かというと、まず、機会ロス。
これはお客さまに「買いたいのに、買えなかった」という経験をさせてしまうことです。言い換えれば、「期待を裏切る」ことに他なりません。
そんな経験を何度もされたお客さまは次にどういう行動を取るか。ご自分だったらどうするかを考えれば分かることだと思います。 しかし、これは「気をつけなければ目にみえないもの」です。気付かないうちに大切なお客さまを失っている可能性があるのです。
そして、値引きロス、廃棄ロス。
いつも売場に値引きシールが貼られている商品が多い店に対して、お客さまはどういった印象を抱くでしょうか?
「この店、鮮度(品質)が悪いの?」でしょう。「値引き多い→売れていない→鮮度や品質が悪い」という連想をされることは想像に難くありません。つまり、「 ロスを改善する = お客さまの信用を得る 」に直結するのです。