執筆者:原田 明人
一つの企業ではできなかったことを、二つ三つの企業が知恵を出し合うことで実現し、新しい価値を生み出していく。こうした戦略が「ポストコロナ」時代のいま、企業の新しい取り組みとしてスタンダードになりつつあります。
今回は、私の研究領域であるビジネスイノベーションに通じる新規ビジネスの事例をご紹介いたします。
道端にある葉っぱに値段をつけるなら?
ささの葉700円、もみじ800円、いがぐり500円、、、 山に入れば自然にある葉っぱや木の実、これらが商品になる? 徳島県、上勝町で葉っぱビジネスを展開する、「彩(いろどり)」は、 高級料亭で料理を引き立てる「つまもの」を提供する会社です。 過去には、「人生、いろどり」というタイトルで映画化されるほど、地方創生の成功モデルとなりました。
顧客は銀座の高級料亭や京都の老舗旅館など、料理に彩を添える「つまもの」で、年間2億円を売り上げるすごい会社です。
日本の地方自治体では高齢化や人口減少が進み、高齢者が全体の半分以上を占める集落が増えてきています。 そこでは、働き手が減ることで産業が衰退する悪循環が進んでいます。上勝町も同様で、近年、高齢化が進み、主力であった木材や温州みかん産業も衰退していきました。¥そうした中で、当時農協の職員であった横石氏が、葉っぱを商品としたビジネスを考案し、地方が元気に、そこで働く人が元気に暮らせる社会を目指して、「彩」を立ち上げました。
「彩」ビジネスの秘訣
「彩」のビジネスを支えるのは、顧客となる料亭やお寿司屋さん・旅館と、農家をつなぐネットワークです。 つなぐネットワークの中心にあるのは、IRODORIという取引サイト、いわゆるECサイトがあります。 立上げ当初は、IRODORIが発注・仕入の両方を担っていましたが、いまでは、SNSやECネットワークを使って、いろいろな販売サイトで彩を見かけるようになりました。
彩のビジネスの秘訣は、もう一つあって、働く人たちが地元の高齢者という点です。 葉っぱは軽く力を必要としないため、高齢者や女性でも気軽にビジネスに参加できるのです。 上勝町では、高齢者の方が仕事を持って活き活き生活をしているため、老人ホームが無いというのがすごいところ、しかも、取引にはIRODORIを使わなければならないため、高齢者でもパソコンやタブレットを自在に使いこなせるようになったというのも、いやはや、頭が下がります。
料理にそっと彩を添える、「つまもの」を見つけたら、「彩」と「上勝町」という名前を思い出して、田舎の風景を想像してみてください!
「いい会社」に投資する投資信託
さて続いては、鎌倉の古民家を本社にしている投資信託の会社について。
神奈川県の南東に位置する鎌倉は、源頼朝が1192年に幕府を起こした場所です。 皆さんも、「いい国作ろう鎌倉幕府!」という言葉で、年号と場所を覚えていらっしゃるのではないでしょうか。 その鎌倉の古民家を本社にして投資信託を運営しているのが、鎌倉投信です。 鎌倉投信は、ちょっと変わった投資信託の会社で、投資で運用利益を追求するのではなく、「事業を通じて、“いいことをしている会社”」に投資をするサスティナブルな会社なのです。
社長の鎌田氏が、会社を設立したのは、リーマンショック直後、世界経済が混乱する最中の2008年11月でした。 「実体としての価値から乖離する金融、自己の利益を優先し、短期的な利益追求に奔走する金融ではなく、本当に社会に貢献する金融の在り方を目指せないか」 そうしたお考えを基に会社を立ち上げ、その後、鎌倉投信の信条である、「三つの『わ』」にたどり着くのです。 三つの「わ」とは、和・話・輪で、三つの「わ」を育む「場」でありたいという志をつくり、「投資を通じて、人と人、人と社会、世代と世代がよりよくつながるお金の循環をつくりたい」という思いを、こうした形で表現しました。
鎌倉投信の投資哲学
鎌倉投信の投資信託は、「結い、2101」という名称なのですが、何を意味するか分かりませんよね。 これは、結い=みんなで、2101=2101年まで続く社会を作りましょう!という意味なんです。 そうした社会を作り上げるために頑張っている、いい会社に投資をするというのが、鎌倉投信のコンセプトなんですね。すばらしい!
なぜ、鎌倉投信はいい会社に投資し、かつ経済合理性を成り立たせることができるのでしょうか。 そこには同社独自のルールがあり、投資信託は、投資の割合を全社一律にしているのです。 それにより、ある企業の株価が下がったとしても、他の企業の株価で補填ができる仕組みなのです。 つまり、投資家も投資先の企業も皆が助け合いながら事業をできる仕組みがあるのです。 また、どんな会社に投資しているのかも鎌倉投信はしっかり開示してくれているので、それらの企業を見るのもちょっと楽しみなんです。
いい会社に投資して、2101年に少しでも私の投資が役に立つかもしれないと考えると、 お金だけではない幸せな思いになりますね。