記事作成者:原田明人
あなたの会社では営業担当者の教育を、どの様にされていますか?
営業担当者の教育は従来、自社の商品知識・お客様と商談をする技術・受注等の業務知識を、先輩社員が現場の仕事を通じて教えるOJT(オンザジョブトレーニング)が中心となっていました。こうした教育の中では「自社の商品を売り込む」という視点が中心となり、「顧客のニーズや課題を中心として営業活動を組み立てる」視点が薄くなりがちです。
現代の市場環境は商品の価値や営業担当者の売り込みテクニックだけでは、商品の販売をすることが難しくなりました。こうした市場環境で求められる営業の能力は、「お客様の(経営)課題を自社の商品を通じて解決する能力」であると我々は考えています。
考え方のベースを作る
私たちは、顧客の経営課題を解決するITソリューション営業の認定資格を受験するためのITPS養成講座を開催しています。ITPS養成講座の4日間における冒頭で、私はまず2つの内容ついて、受講者の方々の考え方の統一を行います。
1.“問題と課題の違い”について
講座の冒頭で、「問題と課題の違いとは?」と受講生に問いかけると、7割の受講生は同じ意味(または曖昧)に捉えています。この冒頭の段階で、しっかりと意味の違いを捉えられていることは非常に素晴らしいと私は感じます。
「問題」とは、あるべき姿と現状のギャップ、あるいはあるべき姿に対しての不足を表します。例えば、“~が不足している”、“~の状態にある”、“~ができていない”などと表現されます。
「課題」とは、問題に対しての行動や戦略を表します。例えば、“~の向上”、“~の強化”、“~をする”のように表現されます。つまり、「問題」はギャップがある状態を表しているのであり、「課題」はあるべき姿に向かっていくためにギャップを埋める行動や戦略を表しているのです。
この考え方のベースを形成しておくと、チームやクラスでの議論に統一感ができるだけでなく、営業担当者がお客様の問題を適切に捉えて、効果的な解決策(ITソリューション)を立案することができるのです。
2.“ウォンツとニーズの違い”について
さて次に、「ウォンツとニーズの違いは?」と受講生に問いかけます。すると問題と課題の時と同じで、7割の受講生は曖昧に意味を捉えています。しつこいですが、この段階で、しっかりと意味の違いを捉えられていることが重要です。
「ウォンツ」とは“欲しているモノ(商品)”を表しています。例えば、お茶が欲しいという状態を表しています。
「ニーズ」とは”欲している理由”を表しています。例えば、お茶を欲する理由、つまりのどの渇きを潤したいなどという欲求を表しています。
つまり、「ウォンツ」は“欲しているモノ”を表し、「ニーズ」は“欲している理由”を表しているのです。
営業担当者は、『お客様から●●商品が欲しいという情報を収集した時』に、「その商品を準備するのか」「その商品を欲している理由を確認(あるいは想定)するか」で、提案する商品に大きな違いが出てきます。
仮説思考を意識する
ITPS養成講座では、仮説を構築するプロセスを大切にしています。
そもそも仮説とは何でしょうか?と、受講生に問いかけると、「仮の説です」とか、「想定です」といった回答が返ってきます。ある意味で正解ではありますが、私は仮説とは『ある情報に基づいた解』と解釈しています。
解説の後、受講生に仮説を立ててもらう簡単な演習をすることがあります。
次の情報を元に仮説を立ててください。
「私はおなかが痛い」
この演習による受講生の答えには、以下のような内容が多く見受けられます。
- 悪いものを食べた
- ストレス
- お腹をぶつけた
- 盲腸
- 寝冷え
- 持病
(まれに、「昼食に毒を混入された」・「妻に殴られた」など、過激なものも含まれますが…)
これらの仮説は全て「お腹が痛い“原因・理由”」で、「原因仮説」といいます。はたして仮説とは“原因・理由”だけのものでしょうか?例えば、以下の内容ではいかがでしょうか。
A.立っているのも辛いのではないか
B.お手洗いに行くべき
どちらも、「情報に基づいた解」を示していますので、仮説と考えられます。
Aは「状況仮説」といい、ある情報から一歩進めた状況を想像した内容です。
Bは「課題・解決策仮説」といい、ある情報にもとづいた解決案を提示した内容です。
このように、仮説とは「原因仮説」「状況仮説」「課題・解決策」の3種類があり、一つの情報から3パターンの仮説を立てることができます。
さて、営業活動でこの仮説という考え方を活用してみましょう。例えば、お客様から下記の情報を収集したとします。あなたはどのような仮説を立てますか?
「最近、製品の在庫が増えて困っている」
まずは、「状況仮説」を立ててみましょう。
例えば、
- 在庫の管理が煩雑になっているのではないか
- たまった在庫は売り切れないのではないか
- 利益を圧迫してしまうのではないか
次に、状況仮説を基に「原因仮説」を立ててみましょう。
例えば、
- 在庫管理がうまくいっていないのでないか
- 製品を購入してくれる顧客が離れているのではないか
- 主力の販売ルートを失ったのではないか
最後に、状況・原因仮説から「課題・解決策仮説」を立ててみましょう。例えば、
- 在庫管理システムを見直してみたらどうだろう
- 顧客のニーズを調査してみてはどうだろう
- 新しい販売ルートを開拓してみてはどうだろう
このように、お客様から収集した情報(一言)から、体系的に仮説を立てることができます。体系的な仮説を立てることで、お客様の課題を体系的にとらえることができるようになり、システム提案の糸口を探ることが可能となるのです。皆様もぜひ仮説思考を営業活動に活用してみてください。
ただし、こうした仮説はあくまでも情報から導き出された解です。真実ではないので、お客様に確認(検証)してみるのは当然ですよね。
考えを論理的にまとめて話す
ITPS養成講座では、論理的に物事を整理するプロセスを大切にしています。講座では、受講生にホワイトボードや模造紙に整理してもらった内容を、発表してもらう時間があります。そこで私は発表する内容を確認しながら“論理的に情報が整理されているか”を、聴いています。
その1:まとめた内容をそのまま読む
多くの受講生は発表するとき、ホワイトボードや模造紙にまとめられて書かれている内容を、そのまま読んでいきます。内容をそのまま読む受講生には『話が詰まってしまう個所がある』という傾向があります。
話が詰まってしまうのは、実は「自分の中で話が論理的につながっていない」ということが要因となっている場合が多いのですが、なんとか強引につなげることで話をまとめています。
発表の後には、私から発表者への質問をいたします。質問は、発表内容(主張)に関しての目的や理由・背景が中心です。例えば、発表内容で、“●●システムの導入が必要”と主張しているのに対し、「導入の目的は?」「導入を考えている背景は?」等と確認します。このような問いかけに対し、受講生は一瞬回答に窮します。それは「当り前だと思っていた目的や背景について質問をされたから」です。ただ、こうした場面で適切に回答できる受講生はあまりいません。
その2:論理的にまとめてから話す
発表の上手な受講生は、まず自分のチームの主張をまとめて伝えてから、その主張に至った理由をプロセスにして話していきます。そうした発表は聴き取りやすく、理解しやすいです。
このような振り返りの場では、発表に対する突っ込みをするというよりは、良い点を取り上げて、良かった理由を示して説明しています。
その3:論理的に構成する
グループワークの中での議論をホワイトボードや模造紙にまとめていく過程では、グループのメンバーの論点の違いや議論の内容を含んだ状態で行われます。
1)論理チェックを行う
論点の違いや議論内容をまとめる過程において、全てを論理的に構成することは難しいため、出来上がった成果物は、『発表する前』に論理チェックすることが重要となります。
2)修正を加える
論理チェックの段階で、スムーズに話せない個所については、修正を加えたり、話の順番を変えたりして発表に備えます。論理を組み立てるグループ演習でも実際には見落としがあったり、論理構成がおかしい部分が見つかります。論理チェックを怠らず、整理してみましょう。“考えを論理的にまとめて話す癖”を、是非とも身につけてください。