マーケティングの費用対効果とは
中小企業は非常に多くの制約条件の中で日々の経営を行っています。
その制約条件の代表的な要素としては、皆さんもう既にご存知のように「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が上げられます。
今回は、中小企業のマーケティング活動において特に大きな制約を受ける「カネ」に着目していきます。
マーケティング活動においても、中小企業は大企業よりも不足する要素が多くとりわけ「カネ」は顕著でしょう。
中小企業の社長にヒアリングしていても 「ウチには大企業みたいに広告にお金をかける余裕がない」という声をよく耳にします。
一方で「しっかりと商品の良さをセンスよく宣伝して売上を伸ばしたい」との声も多数あります。
これは
「売上効果があるならお金をかけたい」
「(貴重な)お金と時間をかけるなら効果を出したい」
という思惑で、
一言で言うと『費用対効果を上げたい』ということになります。
しかしながら、この『費用対効果』は非常に効果測定が難しく、大企業の宣伝広告活動においても判断の難しい局面が多々あります。
例えば、
宣伝部署は
「予算的に厳しいのだけど、これだけ費用かけて商品Aは売れるの?」
と言えば、企画・開発部署は
「これらを盛り込まないと商品Aは売れない。逆にこれらを上手く訴求できれ ば計画以上に売れるかもしれない」
と言います。そして両者の主張は平行線に…
こういうシチュエーションで出てくる言葉が「費用対効果」です。
商品Aの売上計画は3億円とします。この商品の広告宣伝費として予算900万円(売上計画の3%)を計上しているとします。
しかし、企画・開発の部署と訴求内容を作り込んでいくうちに、
「この写真も欲しい」
「この説明もしたい」
「展示会で配布するバージョンも欲しい」
など要望が膨らみ概算で2倍以上…予算を遥かにオーバーしそうに。
例にあげたような状況に陥ってしまうのは、多くの広告宣伝費を投入しても「商品Aは絶対に売れる!」という確証がないからで、このようなジレンマは中小企業のみならず、多くの大企業においても存在します。
しかし私の経験では、大企業においての広告宣伝費は、管理部署に削減を求められながらも、実際は「潤沢なリソース」に甘んじて投入されていきます。
そして、その費用対効果が検証されることは多くありません。
その理由の多くは、次の商品開発が始まっており、過去を振り返る余裕が無いという人的要因です。 もちろん中には、PDCAをしっかり回して、高い効果を上げている企業も存在すると思いますが。
これは、「リソースが不足」しがちな中小企業においては決して真似できません。効果がない場合、企業経営に大きなダメージを与えかねないためです。
中小企業におけるマーケティング活動費用
同友館が発行している「平成25年調査 中小企業実態基本調査に基づく中小企業の財務指標」(2015年4月30日 一般社団法人中小企業診断協会編)のデータより、売上高に占める広告宣伝費の割合を、業種ごとに集計したものを見ていきましょう。
中小企業の製造業・卸売業に関しては、多くはBtoB商流と推測されるため売上高に占める広告宣伝費の割合が、平均で0.1~0.2%となっていました。
それに比べ、BtoC商流が主と思われる小売業・サービス業(宿泊・飲食&生活関連・娯楽)に関しては約0.9~5.3%となっており、これは製造業 ・卸売業に比べて10~25倍の差があります。
これは製造業、卸売業、小売業、サービス業での商流の違いによるもので、BtoB商流なのかBtoC商流なのかで変わってきます。
一般的に多くのエンドユーザーに告知しなくてはならないBtoC商流の方が、多くの広告宣伝費を必要とします。
参考までに、中小製造業のROA※は卸売業、小売業、サービス業に比べやや高い傾向を示しています。これは、設備などの固定資産への投資が影響していて、リスクがありますが顧客との商流が確立されれば、高い売上高営業利益率を確保できることを意味しています。
※ ROA(Return On Asset)総資産利益率。事業に投下されている資産から、どれだけ利益が出たかを示す指標
中小企業における売上高に占める広告宣伝費と売上高営業利益率
次に、業種別の売上高に占める広告宣伝費と売上高営業利益率の関連性を見ていきましょう。
まず小売業です。
売上高に占める広告宣伝費は5.3%、売上高営業利益は2.53%となっています。小売業の売上高に占める広告宣伝費が他の業界よりも際立って高くなっており、小売業における広告宣伝活動の難しさをうかがい知ることができます。
これを製造業と比べると、売上高に占める広告宣伝費は約25倍と極めて高い数値になっています。一方で、売上高営業利益は約2/3となっており、費用対効果でいうと製造業に比べ悪い数値になっているといえます。
BtoC商流における最終消費者との接点として、広く商品を告知するためのコストが多くかかっていることが原因です。
一概にマーケティング活動と言っても業種により異なる特長があります。
「カネ」の切り口から見ても、ただ闇雲に投入すれば良いというものはなく、一筋縄にはいかないことが見て取れるのではないでしょうか。
その他の要素「ヒト」「モノ」「情報」に関しては「外部リソースの活用」が有効であるとも言えます。
マーケティングは多岐に渡る活動であるため「専門家の知見を使う方が効果的である」こと、また必要な時に必要なサービスを受けられるため「コスト効率的である」ことがあげられます。
マーケティングとは「限られた予算を上手に使い最大限の効果を得る」ことにあります。
具体的に換言すると「費用対効果を上げるため、その手段として印刷物やWebや映像、マーケットの解析データなどを業種に合わせて上手に活用しながら『利益を上げる』こと」と言えます。
中小企業において、外部のリソースを上手に活用しながら限られた予算の中で最大の利益を生み出す術を身につければ大きな強みになります。これは、大企業にも当て嵌まる部分があるのではないでしょうか。