執筆者:小松 茂樹
4月7日に政府から緊急事態宣言が発令。先週16日には、その適用範囲が日本全国に適応されることになりました。すでにコロナウィルスが世界中に蔓延しはじめた1~2ヶ月前と比べても、街の様子は一変しました。
すでに生活環境、就労環境に甚大な影響が及んでおりますが、ウィルスとの戦いは長期戦が見込まれています。私たちは、今後も様々な問題と向き合い続けていく日々を迎えることになります。
そして、これらの問題の多くは、これまで私たちが課題認識をしていながらも、解決を先送りしたり、棚上げにしたりしてきた物事に起因しています。言わば、中長期課題として位置づけていた問題が、コロナウィルスの発生により短期課題になってしまい、否応なしに直面しなくてはならなくなった状況にあると言えるでしょう。
まずは、話の前提として、コロナショック以前に私たちの社会が抱えていた課題を確認しておきましょう。
コロナショック以前に抱えていた社会課題
重要な社会課題の一つに「少子高齢化・人口減少への対応」があります。
人口は経済規模とほぼ比例相関します。マクロ視点で見れば国内市場は縮小の一途をたどることになるため、製造業や流通業はインバウンド需要に希望を託すようになりましたが、コロナショックにより海外との出入国が制限されるようになって、インバウンド依存が強かった企業は壊滅的なダメージを受けることになりました。
また、生産年齢人口(いわゆる現役世代)が減少するため、経済の維持・成長を図るためには、労働参画率を上げる必要があります。「24時間戦えますか」の猛烈サラリーマンだけでは人手不足になるため、家庭や個人の事情を勘案して労働条件を柔軟に緩和し、より多くの人たちが働ける環境を作ろうとしていました。それが「働き方改革」です。
需要創造や働き方改革を実現する上で期待されていたのが、AI(人工知能)、RPA、IoT、5Gなどテクノロジーです。これらがもたらすビジネスへの影響は「第四次産業革命」と呼ばれ、リアル(現実空間)とバーチャル(仮想空間)を融合させることが、次世代ビジネスの指針ともされていました。
「少子高齢化×第四次産業革命」がもたらす具体的課題
この「少子高齢化・人口減少への対応」と「第四次産業革命テクノロジーの活用」が絡み合い、私たちはより具体的な課題を抱えていました。
まず1つ目が「テレワークの推進」です。育児や介護、自分の健康など様々な事情を抱える人が安定して働き続けるためには、就業時間や通勤などの過去の慣例を取り払い、時間や場所を問わずに働ける柔軟な就労環境が必要となります。
テレワークは働き方改革が打ち出された4~5年前からすでに推奨されていましたが、なかなか浸透していなかったのが実情です。総務省「平成30年通信利用動向調査」によれば、テレワークを導入している企業は19.1%あるとされている一方、実際にテレワークを実施した個人はわずか8.5%であるという結果が出ています。つまり、9割以上の方はテレワークとは無縁の世界で仕事をしていたということです。コロナウィルスの到来以前に、テレワークがもっと広く普及していれば、社会は緊急事態宣言にもよりスムーズに適応できたであろうことは想像に難くありません。
なお、コロナウィルスによる被害が大きくなってきた3月下旬、パーソル総合研究所が実施した「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によると、テレワークで仕事を行っている方の割合は全体の13.2%を占め、そのうち47.8%が現在の会社で初めてテレワークを実施したと回答しています。
緊急事態宣言以前の調査であるため、現在のテレワーク率はこれよりも高い水準になっていると思いますが、それでも、3密(密集・密接・密閉)を避けてウィルスを封じ込めるには十分な水準とは言えません。生産や流通、医療・福祉介護など、商品やサービスの生産や提供が現場でなければ行えない業種以外は、早急にテレワークに移ることが望まれます。
そして2つ目の課題として、「職務主義・成果主義への転換」が挙げられます。全員がオフィスに出社して、席を並べて仕事する形式とは異なり、テレワークは一人で仕事を行います。仕事中はお互いに状況が見えない中で働いているため、仕事をしたかどうかは「何をしたか(就労)」 ではなく 「何を生み出したのか(成果)」でしか判断できなくなります。
そして、そもそも「時間と場所を問わない」働き方がテレワークなので、「何時間働いたのか」を問うことすら意味をなさなくなります。テレワークの浸透は、必然的に「労働時間による評価」から「職務・成果」へのパラダイム転換を求めることになるのです。
3つの目の課題として、第四次産業革命テクノロジーを用いた「業務の自動化・無人化」が挙げられます。生産年齢人口が減少する中で、経済を維持し、さらなる発展を求めるならば、労働生産性の向上が不可欠になります。そこで、人工知能、RPA、IoTなどの技術を複合的に駆使して、定型的な業務を自動化・無人化することで、人間が創造的な仕事に集中できる環境を構築しようとしていました。これを「デジタライゼーション(業務のデジタル化)」と言います。
そして、4つめの課題として、同じく第四次産業革命テクノロジーを用いて、商品やサービスそのものをデジタル化し、新しい付加価値を生み出していこうという動きがありました。リアル(現実)とバーチャル(仮想)を組み合わせて多様な課題解決を図り、人々の生活や企業経営を変革していく取組を「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼びます。
テレワークのみならず上記4つの課題が、業種・業界を超えた課題として存在していました。しかし、上述の通り多くの企業や団体がこれらを「中長期課題」と位置づけ、実際にはあまり進んでいなかったというのが実態です。就労環境のリモート化、ビジネスや業務プロセスのデジタル化が推進できていれば、ダメージを比較的小さく抑えることができました。今回の事態は、そのツケが回ってきたものと考えることができます。
コロナウィルスの爆発的な普及によって、これまでのビジネスのあり方を根底から否定されることになりました。「現場」「現物(アナログ)」「現実」の3つを合わせて「三現主義」と言いますが、テレワークはその真逆となる「在宅」「デジタル」「仮想(バーチャル)」の就労環境だと言えます。
我々は意図せず、時代の転換点を迎えることになったのです。
いま、私たちに求められていること
コロナウィルスとの戦いは長期戦が見込まれています。私たちの目の前の課題は、とにかく感染拡大を防止することです。
うがい手洗い、マスク、3密の回避、外出自粛、ソーシャルディスタンス。感染ピークを少しでも抑えるためにも、私たちはできる限り家にいるしかありません。しかし、その一方で、社会の血液である経済活動を極力止めずに済むよう「いま、できること」を考えることも必要です。行政もいろいろと施策を打ち出してくれていますが、その原資はすべて税金です。私たちが生き抜いていくためにも、私たちは稼がなくてはなりません。
街には人が居ない、お店も閉まっている、みんな家に引きこもっている。この状況の中で、いかにして価値を生み出し、収益を上げていくのか。自分たちのビジネスを、どのようにデジタルトランスフォーメーションしていくのか。かつての長期課題は、今はもう生きるか死ぬかの短期課題です。まずは感染拡大防止とビジネスの継続を両立させるために、「テレワークの安定運用を図っていく」ことが急務です。
(この続きは、メールマガジン5/8配信後に掲載いたします)